ボブ・ジェイムス / "ANGELS OF SHANGHAI" [Contemporary / Fusion]
Artist : Bob James
Title : "ANGELS OF SHANGHAI"
Release : 2006
Label : VIDEOARTS MUSIC→http://www.videoartsmusic.com/
Style : Fusion / World
◆jazz度数・・・★★☆☆☆ (2/5p)
◆お気に入り度数・・・ ※最高は5つ
◆Situation・・・
2月22日に発売になっていたボブ・ジェイムスのエイジアン・プロジェクト作品、『ANGELS OF SHANGHAI』を発売から2ヶ月近くも経ってようやく手に入れた。ずっと彼のファンだった僕だけど、この作品のコンセプトが「コンテンポラリ・ジャズ/フュージョンと中国の伝統楽器によるコラボレーション」と聞かされて今ひとつピンと来ず、何となく手を出せずに居たのだ。
ひょっとして女子十二楽坊が受けたから?。
意地悪くも、そんなことを先ず第一に思いついた。峠を過ぎて忘れられそうな人や売れないミュージシャンなら兎も角、このジャンルの第一人者のボブがまさかそんな浅薄なことを考えるはずもない。そう自分で打ち消しつつ、同時にもう1枚、こちらはいつもの路線でアルバム『URBAN FLAMINGO』がリリースされると聞かされれば、どうもこの上海プロジェクトは「企画物」の匂いがプンプンだ。だって、4曲目の曲名をよく見て欲しい。なんとこれ、NHKで放送していた人気ドラマ「宮廷女官チャングム」のテーマ曲なのだ。ちょっと当てたい日本のレコード会社がそんな企画を持ってボブにアプローチしてみたら、意外やOK出ちゃったよ、みたいなノリで作られた作品だったりしたら・・・。
そんなの絶対お金出して買いたくないよね(苦笑)。
ま、良心的な佳作を次々地道に送り出してくれるVideoArts社が、そんな安直な企画物をやるはず無いのは重々分かってはいるけど、中国の音楽になんておおよそ普段馴染みが無いんだもの。耳にする機会はせいぜいチャイニーズ・レストランのBGMがいいところの僕が迂闊に手が出せないのも無理は無かっただろう。
ところがところが、①を聴いてみてまず、「おや?」と思った。確かにイントロから流れる中国伝統楽器の音色は中華風味たっぷりなのだが、妙に違和感が少ない。聴き進むと中国楽器が全く姿を見せないパートもあるワケなのだが、美しく爽やかに、そして映像的にも思える広がりを見せるメロディー、リフにつられてグイグイ引き込まれて行く。実際には公害だ黄砂だなんだでこんなに青い空なのか疑問にも思う所だが、このアルバムのジャケットにもある海から望む上海の街と空とを思い起こす。
そしてジャック・リーのギター・ソロの音色で気が付いた。近い。あまりにもパット・メセニーに似ているのだ。そうか、この非欧米的なエスニック・サウンドの感覚はパット・メセニー&ライル・メイズの作品にも共通する肌触りなのかも知れない。
いや、もっとそれ以前からボブはこんな音楽をやっていたじゃないか。そうだよ、1983年のアルバム『FOXIE』、“MARCO POLO”のあの感じ。ポップに耳に馴染みよくフュージョンと東洋的なサウンドが混じり合う、あの感じだ。
「どうもパンチが足りないなぁ。悪くないけど、音がずっと耳に残ってくれないんだ」。
最近のフォープレイにそんな気持ちを抱いていた僕は、“MARCO POLO”の頃のボブを思い出してなんだかワクワクして来た。事前に少々不安にも思っていた東西のサウンドのマッチングは魔術師のような彼のアイディアとプロデュースを得て見事に一つになっている。
中国伝統楽器(主として二胡)が織りなす②のイントロのリフ(実はキメのテーマにもなっている)を聴きながら、これはフォープレイや普段のボブの作品だったなら、どんな楽器がどんなふうに音を重ねてゆくだろう・・・と次第にのめり込んでゆく。
そんな事を思いながら、いつの間にか曲が変わる。ネイザン・イーストが穏やかなスロー・バラッド③で優しく囁く。100%西洋的典型のバラッドを、甘く美しく二胡の音色が引き立てる。似てはいるが、やはりバイオリンとは何かが違った「東洋」を感じさせるその優しい音色にすっかり魅せられる。これはやはり二胡でなくてはこの色には染められなかったのだろうな、と。
④は前述したチャングムのテーマ曲。あのメロディーがボブのピアノで奏でられる必要は有るのかと疑問にも思ったけれど、これがインプロビゼイションも含めなかなか力強いトラックに仕上がっていて面白い。4分ちょっとと短い作品だけど、昨今のスムース・ジャズには無いがっちりした骨太の後半部のアレンジに拍手!。
⑤ちょっぴりアンビエントなリフとプログラミングされたリズムにボブのピアノ・ソロが絡む、「らしい」作品。90年代半ばのマイケル・コリーナあたりがプロデュースに咬んでいた頃のボブの作品を思い出す。
⑥エンジェルスのテーマということで東洋色の強いナンバー。二胡がリードする切なくも美しい調べ。その音の合間から零れ落ちるかのようなピアノの音色もまた、悲しいほどに美しい。
⑦絵画やコンピュータ・グラッフィックにも才能を発揮するボブだが、「魔法の絵筆」と名付けたこの曲ではどんな景色が浮かんでいたのだろう。朗々と響く笛と古箏の音によって描かれる枯淡で簡潔な趣の山水画に、ボブの洗練された鮮やかな絵筆(ソロ)が加えられると、それは途端にモダンな普段の彼のアートに一変する。これぞまさに東洋音楽とジャズの魔法の融合。
⑧高貴で清廉なメロディーを二胡とピアノがデュオで奏でる美しき小品。
⑨前曲がイントロとなっているかのように引き続き二胡がメロディーのイニシアチブを執り、笛と音色を合わせたボブのシンセ(ミディ・ピアノ)が幻想的に絡み合う、ボブお得意のミッド・スロウ作品。僕はここでのイメージとして、リー・リトナーがかつて寺井尚子のプロデュースした『プリンセスT』での“BLACK MARKET”を思い出した。爽やかでポップなチューン。
⑩今作で一番のジャズ的アプローチ作品。初めて耳にした時は不思議な感覚だったけど、聴き込む程に面白くなって来る。ゆったりとした、大らかな楽曲に似合うイメージのあるチャイニーズ・インストゥルメンツが小刻みなシンバルワークのアップテンポに乗せて奏でられるのはなかなかスリリングだ。ライブではきっとこの曲がインプロビゼーション炸裂の熱い「見せ場」になりそうな予感がする。
⑪最後はアコースティック・ギターとピアノのアルペジオに乗せて柔らかな笛の音が導く、ちょっとクールな寂寥感を持ったナンバー。部分的に使われるエレピの音色の振幅も幻想感を増すのに一役買っている。深い情感を以て奏でられるメロディーに引き込まれ、いつか僕は、これが中国の伝統楽器によって奏でられていることなど、まるで忘れてしまっていた。
聴き始めには、確かにいろんな違和感が有ると思う。
サウンドの面以外でも、音楽にこんな感情を持ち込みたくはないけれど、現在の政治的にすっきりしない日本と中国の関係を思うと、素直にこのアルバムを聴く気になれなかった僕が居たのも確かな事。
でも、決して綺麗事を云う訳じゃないけれど、この作品の音楽はそんなことを超越して僕らに新しい感動を与えてくれる。
アメリカ人(ボブ)が発想して、日本人のコーディネイトを経て若い中国人演奏家達(エンジルス)が素晴らしい演奏を披露し、韓国人(ジャック・リー)も共同プロデュースに携わったこの素敵な作品を聴けば、誰にでもそう感じて貰えるはずだと僕は思うのだ。
それなのに何故、奪い合うのではなく、ともに分かち合えないのだろうと、領土や海底資源の問題を思い浮かべ悲しくもなったりする。
分かち合えない不幸の種は、いっそ誰も手を付けない、付けてはいけないんだと云う発想は「国」単位では生まれないんだろうか・・・?。普通には人も住めない海に浮かんだ「岩」を巡ってこんなにも隣人達とギスギスしている今、藁にもすがる気持ちで音楽やアートが人の気持ちの架け橋に、本当になってくれたらいいのに、と柄にもない事を切に願ったりしている。
このアルバムは是非、いろんな先入観を取り払って繰り返し聴いてみて欲しい。ここにあるのは、間違いなくボブ・ジェイムス渾身の傑作だ。
◆Bob James's web site : http://www.bobjames.com/
VIDEOARTS MUSIC : http://www.videoartsmusic.com/
◆ボブ・ジェイムスに関連する過去記事
・「Fusionはこのまま消えゆくジャンル?」・・・(http://blog.so-net.ne.jp/ilsale-diary/2005-12-28)
・「Fourplay SNOWBOUND」・・・(http://blog.so-net.ne.jp/ilsale-diary/2005-12-24-1)
・「STORM WARNING ~ ヒラリー・ジェームス&ボブ・ジェームス」(http://ilsale.at.webry.info/200508/article_5.html)
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♪こちらはジャケ違いの輸入盤
Angels of Shanghai (2007/04/10) Bob James 商品詳細を見る |
01. Celebration
02. Gulangyu Island
03. Endless Time
04. Theme "Onara" from "DAEJANGKEUM"
05. Dream With Me
06. Angels' Theme : The Invention of Love
07. The Magic Paintbrush
08. Melodia : A Quiet Place for Two
09. Butterfly Lovers
10. Dialogues : The Universal Language
11. Angela with Purple Bamboo
■Bob James (piano & synths), Jack Lee (guitars),Nathan East (bass on trk#2,#3,#9 & lead vocal on #3), Harvey Mason (drums & percussion on #7,#10,#11), Lewis Pragasam (drums & percussion)
The Angels : Ma Jia Jun (er-fu/二胡), Liu Zhen (er-fu/二胡), Li Li (pipa=琵琶), Xie Tao (Guzheng=古箏), Zhao Qi (dizi=笛)
◆文中に登場した関連作品
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