SSブログ

Ribbon In The Sky [my favorite songs]

 「最後に会って指輪を返したいの」 
 そう電話口で云う彼女の言葉に、僕はすぐには何も答えられなかった。

 あれは君が自分で選んだものなんだから、出来れば僕の事とは切り離して持っていて欲しい。もしそれが出来ないと云うのなら、今は何も云わずに、僕に知らせないままに捨てて欲しいと伝えた。

 彼女はただ黙って、それ以上何も話さなかった。
 それは、まだ真夏のような日差しがいつまでも残る、去年の秋のことだった。

 
 半年前の、僕にしてみればほんの些細なひと言がきっかけになって、ふたりは離れる事になった。

 「そんなつもりで云ったんじゃない」
 「あなたは冷たいわ」

 そんなやり取りを、電話やメールで何度もしたけれど、よじれてしまった気持ちはもう元には戻らなかった。



 とにかく会って話そうと云った彼女と、結局僕は最後まで逢えず終いだった。
 「こんな大事な話を電話で済ますの?」
 彼女はなじるように僕を責めたけど、逢えばきっと、一時の感情からそのままに別れに向かうような気がして、お互いに怖かったのだと思う。僕が逢おうと云えば、今度は彼女が躊躇った。

 ほんの些細なひと言は、あくまでも事の引き金に過ぎないのだ。

 彼女の心の中には満たされないものが幾つもあったはず。
 それに気付いていながら何も出来ない僕は、彼女と逢える時が幸せであるのならそれでいいと思っていた。

 同じ事を何度も何度も繰り返しながら、ただ時間だけが通り過ぎていった。



 昨日、何の前触れもなく突然に彼女から荷物が送られて来た。
 その中の白い封筒には、手紙も添えられずに、ただあの指輪だけが入っていた。

 僕は、初めてそれを自分の手に取り、じっと見つめた。

 あんなに長く一緒に居たのに、ちゃんと見てあげていなかったんだね

 彼女が選んだ、小さな真珠の載ったその指輪に、そっと指を通してみる。

 そう云えばあの時も長い喧嘩をして、その仲直りに君がせがむからふたりで買いに行ったんだ



 小さな指輪は、僕の薬指のなかほどで止まった。
 
 これでよかったのかい?
 間違っていない?
 
 やわらかだった彼女の手と、やさしかったその指を思う。
 コートのポケットの中、初めて手をつないで歩いたあの冬の日の夜を思う。


 なみだが、ぽろぽろと、こぼれた。


“RIBBON IN THE SKY”

if allowed may I touch your hand
and if pleased may I once again
so that you too will understand
there's a ribbon in the sky for our love
   ( by Stevie Wonder )




トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。