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ソフィー・ミルマン / "MAKE SOMEONE HAPPY" [jazz / Female Vocal]

Sophie Milman

Artist : Sophie Milman
Title : "MAKE SOMEONE HAPPY"
Release : 2007
Style : jazz (female Vocal)
jazzっぽさ・・・★★★★☆ (4/5p)
お気に入り度数・・・ ※最高は5つ


 色々な意見は有ると思うのだが、先ずは冒頭から言い切ってしまおう。ソフィー・ミルマンのデビュー第2作目は想像以上に素晴らしい出来映えだった!、と。

 2004年リリースの前作もとても好い内容だったとは思うけど、熱唱型があまり得意でない僕にとってはちょっと歌い方が「熱すぎる」とも感じていた。たまに聴くには悪くないんだけれど、普段から繰り返しローテーションするには少々キツいかな~、って具合に。いくら美味しいワインだって、毎日こってりとジャムのように濃いヤツばかり飲み続けていたら、舌だってきっと疲れちゃうでしょう?。

 しかし、そんな僕の彼女の歌に対するイメージは、この新作に依ってすっかり塗り替えられてしまった。持てる力の全てを歌に詰め込もうと声張り上げて頑張ってた感の有る前作に較べて、好い具合に力の抜けた、なんとも心地良いゆとりに満ちた仕上りになっていると思えるのだ。




 さて、このアルバム、僕はとても気に入っているのだが、その出来をどう取るかは、リスナーがソフィーの歌に何を求めているかで大きく変わってしまうのかも知れない。実際、彼女のファンの中では僕の評価とは反対に、地味でつまらない出来映えだとの厳しい意見もあるようなのだ。デビュー作である前作と今回のアルバムを比較すると、この新作は選曲やアレンジなど含め、全般的に抑揚が無く大人し過ぎると思われてしまっているようだ。僕が思うに、きっとそんな意見の方達は、バラッド系のスロー・ナンバーが支配的過ぎて、彼女の長所である感情の起伏に富んだ豊かな表現力、躍動感を生かすナンバーが全然足りないのだと感じて居られるのだろう。

 確かに前作で採り上げられていた楽曲のバリエーションはスタンダードは勿論のこと、ポップス、ブラジリアン、果てはロシア民謡までと、とても彩り豊かなで曲調の起伏もハッキリとしたものだった。

 では今作はそれと比して、そんなにも平坦で大人しい選曲、アレンジの「つまらない」アルバムになってしまっているのだろうか?。

 いやいや、そうではないだろう。

 僕は思うのだ。一番に変わったのは前述のとおりソフィーのヴォーカル・スタイルなのであって、それに因ってアレンジの出来云々よりもなお一層、楽曲の印象に落ち着いたイメージを与えているのではないかと。



 ここからは収録曲の印象を順に綴っていこう。
 
01. People Will Say We're in Love

 アルバムは、リチャード・ロジャース&オスカー・ハマースタインⅡのコンビのペンからなる軽やかな恋の喜びの歌で幕を開ける。ハスキーな甘い声で「私が魅力的だなんて云わないで 私たちが愛し合ってること、すぐに噂になってしまうわ」と屈託無くも明るく歌い上げる“恋する乙女”ソフィーの歌声は、歌詞そのままにとてもキュートで魅力的だ。なお、バックは現在のソフィーのパーマネント・バンドであるポール・シェロフ(P)、キーラン・オヴァース(B)、ジョン・フラボニ(Dr)の気心知れたトリオが担当。軽妙洒脱な心地良い演奏で乗せてくれる。

02. Something in the Air Between Us

 続いては本作のプロデューサーであるステファン・マッキノンのオリジナルで、共作者にAORファンには何とも懐かしいマーク・ジョーダンの名前が。ちょっと脱線してしまうけど、マークはNY生まれのトロント育ちで70年代後半にはロスに拠点を移し、ジェイ・グレイドンのプロデュースを受けアルバムを発表するなどしたシンガー、ソングライターなのだ。現在はカナダに戻ってこう云った形で楽曲提供などして、現役として頑張っているのだろうか。ちょっと嬉しい発見。

 かつてのAORの頃そのままとは云わないが、ここではナイロン・ストリングス・ギターとストリングスを配したロマンティックなボサ・ノヴァ・ナンバーを提供し、ソフト&メローな“SOMETING”をリスナーへと届けてくれている。どことなくジョルジュ・ペンの"CONSTANT RAIN(CHOVE CHUVA)"を思い出させる、素敵な曲だ。

03. Rocket Love

 云わずと知れたスティーヴィー・ワンダーの名曲のカヴァー。低く抑えた歌い出しから、徐々にドラマティックに盛り上げて行くのだが、最終的に熱くはならずに、歌詞のとおりにクールに歌い切っている。この歌は、悲しみを抑えているからこそ切々と訴えるものが聴く僕等の胸にも届くのだ。何度繰り返し聴いても、ソフィーの素晴らしいヴォーカル・パフォーマンスと深い表現力に感じ入ってしまう。この曲が僕にとっては本作のベスト・トラック。

04. So Long, You Fool

 こちらはピアニストのポール・シェロフの書き下ろし。1曲目で浸っていた恋の喜びは、今やすっかり醒めてしまった模様。心地良く刻まれるギターのリズムに乗せて「間違っていた。愚かだった。もう二人の恋はおしまい。さよなら、ごきげんよう。おバカさんに別れのあいさつ」との別れの情景がちょっぴりコミカルに描かれる。スタンダードに非ずして、古くからの知られざるミュージカル・ナンバーのようなノスタルジックな趣を持つ佳曲。

05. Matchmaker, Matchmaker

 ハーモニカの朗々とした調べに乗せて「仲人さん、私に完璧な縁談を持って来て!」と歌われる楽し気なアップ・テンポ・ナンバー。僕はこんな曲が在るのを知らなかったけど、ソフィーみたいな若い女の子が歌うと、なんとも微笑ましく聞こえるものだ(^^。元々は1964年公演のブロードウェイ・ミュージカル「屋根の上のバイオリン弾き」の為に書き下ろされた曲なんだって。

06. Like Someone in Love

 チェット・ベイカーが霞みがかった声で囁く様に歌っていたこの曲をソフィーが歌うのを聴いて、ついついヘレン・メリルを思い出してしまうのは僕だけだろうか。この曲のソフィーはオトナの可愛いオンナってイメージ。まだ22歳だった3年前はきっとこんなふうには歌えなかっただろう。彼女が確実に成長しているのを実感。クラリネット、フルート、アルト・フルートの軽快なアンサンブル、グイド・バッソなるプレーヤーのフリューゲルホーン・ソロがとても心地好い仕上がり。

07. Make Someone Happy

 穏やかな月夜の海にボートで波間をたゆたうようなゆったりとしたテンポで奏でられる、とてもロマンチックなバラッド。

08. (It's Not Easy) Bein' Green
 
 ティル・ブレナーがアルバム『That Summer』やそのライブで採り上げていたのがとても印象的だった、セサミストリートの人気者・カエルのカーミットのテーマ・ソング。彼の肌の色であるグリーンをモチーフに「自分に無いものを持っている人を羨んでも仕方ない。私は私。それこそが、かけがえのないの無いこと」と歌う、可愛らしくもふかーい1曲。

09. Reste(Stay)

 フランス語で歌われる、ガット・ギターの音色が涼やかな夏向きボッサ。この曲のコンポーザーでもあるキャメロン・ウォリスのテナー・サックスも入りゲッツ&ジルベルト風の仕上げ。

10. Fever
 
 今作では「熱唱」は抑え気味のソフィーなれど、さすがにこの曲ではちょっぴりギア入れてます。ただ、それでもかなり抑揚は意識してコントロールされているので、熱くあつ~く歌う情熱的なソフィーがお好みだった向きには物足りないかも。

11. Undun

 オリジナルはゲス・フーと云うカナダのロック・グループで、1969年の全米チャート22位まで上がったヒット・チューンなのだそうですが、ワタクシそちらには全く以て疎いので存じ上げません。部分的にだが原曲を試聴した限りではここでのソフィー・バージョンも割合原曲に忠実なアレンジが施されているようだ。

12. It Might as Well Be Spring

 ①に続き再度R・ロジャース&O・ハマースタインⅡ世のコンビによる「春の如く」は軽やかなラテン・スタイルでのカヴァー。暖かな春風をフォローにして一気に駆け抜けるかの様なアップライトベースのサウンドが何とも朗らかで心地良い。

13. Eli, Eli (A Walk to Caesarea)

 ソフィーのインタビューに拠ると、ヘブライ語で歌われるこの歌はナチに殺された人を歌ったもので、イスラエルでは誰でもが知っていて、かつ涙無しには聴けない悲しい曲なんだそうだ。7歳でロシアから移り16歳までを彼の地で過ごした彼女にとっては第二の故郷を偲んでのチョイスだろうか。

14. Stay [English Version]

 ⑨の英語ヴァージョン

15. Save Your Love for Me

 最後はいかにもステージのエンディング近くで聴かせてくれそうな余韻を引く曲で、ハモンド・オルガンのスモーキーな調べに乗せたブルース・ナンバー。ソフィーのヴォーカルは前半はしっとりと抑えめで、終盤サックス・ソロを引き継いでからはスケールの大きな伸び伸びとしたもので、リラックスして気持ち好く歌えているのがこちらにも伝わってくる。





 デビューから3年間のプロとしての経験は、ソフィーを歌の上手い女子大生から、本物のジャズ・ヴォーカリストへと変えた。ステージを多くこなせば、当然それだけ様々な客席の反応も知ることとなる。また、繰り返し何度も歌うスタンダードをとってみても、日々のコンディションや気持ちの持ち様で全く違った表情を見せることも歌いながら学んだだろう。

 そうしたことを踏まえて、今回数多の中から選んだものが現在のソフィーが歌いたいと欲する楽曲。集ったのはスタジオだけの付き合いではなく、ツアーも共にする「仲間」のミュージシャンたち。全てが制作サイドから準備された段取りに則って制作された1枚目より、こんな条件下で彼女の意が多く反映された2枚目の方が、より自然な素顔のソフィー・ミルマンなのだと、好意的に考えることは出来ないだろうか?。

 加えて1枚目のアルバム録音時、彼女はたったの22歳だったのだ。自身でもインタビューで語っていたけれど、まだ経験したことの無いような詞の中のドラマに自らを投影し、咀嚼して表現して聴かせるにはあまりにも若過ぎた。

 ただ、その点をカヴァーして余りある歌の上手さとルックスと勢いとを持っていたが為に、あれはあれで充分に魅力的な作品だったのだと思う。



 僕は当時の彼女の印象を「クールな容姿でクールな歌声なのかと思いきや、一旦火が着くとかなり勢い良く燃え上がるタイプのようで、なかなかに強い情熱を秘めた熱いヴォーカリストのよう」などと記していたのだが、今にして思えば、きっとそれも彼女の若さ故に感じられたこと。

 向こう見ずな勢いとその若さが眩しかった22歳と、大人の女性の落ち着きを見せ始めたしなやかな25歳と、どちらを好むかはあなた次第。だけど、ソフィーの2作に関しては、僕のお薦めは抑制が効いて、より表現力が豊かになったと思える現在進行形の後者だと云うワケ。


 ついでに云ってしまえば、現在のところ、これが僕の今年一番のお気に入りアルバムとなってマス。07年後半、これを凌ぐアルバムは果たして出て来るのだろうか?。




試聴はこちらをクリック

※国内盤は#14、15曲目がボーナストラック
メイク・サムワン・ハッピー メイク・サムワン・ハッピー
ソフィー・ミルマン (2007/06/16)
Viictor Entertainment,Inc.(V)(M)

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01. People Will Say We're in Love
02. Something in the Air Between Us
03. Rocket Love
04. So Long, You Fool
05. Matchmaker, Matchmaker
06. Like Someone in Love
07. Make Someone Happy
08. (It's Not Easy) Bein' Green
09. Reste [Stay]
10. Fever
11. Undun
12. It Might as Well Be Spring
13. Eli, Eli (A Walk to Caesarea)
14. Stay [English Version]
15. Save Your Love for Me



こちら↓が2004年リリースのデビュー作。

Sophie Milman Sophie Milman
Sophie Milman (2004/11/30)
Linus Entertainment

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