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スティーヴ・タイレル / THIS GUY'S IN LOVE [jazz / Male Vocal]

Steve Tyrell_This Guy's In Love.jpg
Artist : Steve Tyrell
Title : "THIS GUY'S IN LOVE"
Release : 2003
Style : Jazz / Vocal
jazz度数・・・★★★☆☆ (3/5p)
お気に入り度数・・・ ※最高は5つ

 この秋、MotionBlue YOKOHAMA(10月4日)とBlueNote-Tokyo(10/9~11日)にやって来る予定の、遅咲きのjazz singerスティーヴ・タイレル。この50過ぎの、一見どこにでも居そうな普通のオジサンが歌う2003年作のアルバム、『THIS GUY'S IN LOVE』が殊の外、最近の僕の気に入りとなっている。噛めば噛む程味の出る、スルメならぬ彼の地ならばのビーフジャーキーのような旨味がたっぷり。派手じゃないんだけど、このアルバムは結構美味しいよ~。

Steve Tyrell's official web site : http://www.stevetyrell.com/03/index.html




 例えば冗談で、テキサスで普通に農場やってる人だよって聞かされたなら、何の疑いもなく信じちゃうだろう、このルックス(笑)。特にハンサムでもなし、苦み走った渋いタイプでもなし。インナーの写真なんか見てると、ちょっとみ○もんたみたいにも見えたりして・・・(苦笑)。ほんとに何処にでもいそうな普通の、人の善さそうなオジサンなんだけど、歌わせるとこれが実にさり気なく、洒脱で粋なんだな。

 スティーヴ・タイレルは元々レコード会社の制作サイドのスタッフ。テキサス州ヒューストン出身の彼はハイ・スクール時代には地元のクラブで歌うなどの活動はしていたものの、卒業後は裏方の道を選び、18歳でセプター・レコードのA&Rマンとなった。同社でディオンヌ・ワーウィックやB・J・トーマスらのレコーディングに腕を奮うようになると、今度は次第に作曲方面にもその才能を広げ始める。69年に彼とマーク・ジェイムスが共作した“イッツ・オンリー・ラブ”B・J・トーマスが歌いヒット。この成功以降はプロデューサーとしても第一級のキャリアを積んで行く事となるのだ。

 91年、彼は映画「花嫁のパパ」のサウンド・トラックのプロデュースを手掛ける。この作品でケニー・ランキンの書いたスタンダード曲“今宵の君は”を取り上げることとなり、タイレルは自身が歌ったデモを制作する。ひょんなことから幸運は転がり込んでくるもので、これを聴いた同映画のチャールズ・シャイアー監督や主演のスティーヴ・マーティンらがタイレルの声を大いに気に入り、彼の歌ったデモはそのまま、映画の重要なテーマ曲として劇中で使われることとなる。

 こんなラッキーな歌声のスクリーン・デビューを経て、1999年、友人等の勧めもあって彼はついにアルバム・アーティストとしてのデビューを果たすこととなる。1stアルバムの『スタンダード・タイム』をリリースしたこの時点で、彼はなんと50歳。レコード業界、それも制作の第一線に身を置いていたとはいえ、やはりこの年齢での歌手デビューは異例中の異例だ。ジャズと言うジャンルの特殊性を考慮してもやはり珍しい。売り出す側のレコード会社にだって、売り方を考えればこれは結構リスキーな賭けだったハズ。しかし、彼のデビュー・アルバムはジワジワと評判を呼びベストセラーとなり、遅れてやって来た年寄りルーキーは立派に花開かせる事となる。こう言うサクセス・ストーリーって、いかにもアメリカ人が好みそうなハナシだよね~。面白い脚本が有りさえすれば、すぐにでも映画の題材に出来ちゃいそう(笑)。




 彼の声は、ハスキーなんて気取って言うよりも、「ダミ声」って言い放っちゃった方がしっくり来る。でもそのダミ声が、なんだかとっても身近な人と楽しく会話してる様な、とてもくつろいだ心地の良さを感じさせてくれるから不思議だ。サッチモほどにはつぶれてはいないけど、彼と共通したハートウォーミングな「ダミ声」なんだな。

 オープニング、名コンビのロレンツ・ハートとリチャード・ロジャース作、と説明するよりも、オードリー・ヘップバーン主演のロマンティック・コメディ、『麗しのサブリナ』のテーマ曲と言った方が分かりやすいだろう①から、ついつい頬が緩んでしまう。この声でロマンティックじゃない?なんて訊くなよ~!ってね(笑)。ボブ・マンのイントロでのギターが如何にもテキサスっぽい南部フィーリングなんだけど、泥臭さが野暮ったくなくスパイシーなアクセントとなっていて楽しい。クラーク・テリーのミュート・トランペットもとてもリラックスしたムードを醸し出している。

 ②はボッサ・スタイルで聴かせる。後半のテナー・ソロは現在闘病中のマイケル・ブレッカーによるもの。

 ③は日本人が大好きな、ヘレン・メリルのオハコ。 
 
 ⑤は僕のお気に入りトラック。リー・ワイリーの名唱で知られるこの曲が気持ち好いのは、タイレルが同じしゃがれ声のヴォーカル・スタイルだからかな?、絶妙の選曲。ディオンヌ・ワーウィックのヴァージョンで知られるバカラック・ナンバーの④がピタリとハマっているのも、予想外のミスマッチで楽しい。バカラックとは旧い友人との事で、ここではピアノとアレンジも担当している。

 再びマイケル・ブレッカーの御機嫌なテナーをフィーチャーし軽快なテンポでスウィングするガーシュインの⑫も御機嫌だ。

 ストリングスとピアノの響きも美しい⑬はグッとシックに迫る。3分に満たない短いトラックだけど、聴く度にしみじみと沁みてくる、僕のフェイバリット。なんともロマンティックなアラン・パスクァのピアノ・ソロも◎。

 最後も引き続きバラッド⑭でしっとりと。これはデイヴ・グルーシンの曲にアラン&マリリン・バーグマン夫妻が詞をつけた新作で、このコンビはかつて「トッツィー」の主題歌“君に想いを”のチームで、デイヴはオーケストラのアレンジも担当している。

“LOVE LIKE OURS”

 なんと安らかな常緑樹の木陰のよう
 まさに僕たちの生きる意味は このためだと気付いた
 僕たちのような愛に巡り逢えたら 命をかけてそれを守ろう
 どんなに道に迷っても どんな雨の日がやって来ても
 僕たちのような愛が 僕たちを守ってくれる

 穏やかに、こう愛の大切さを歌い聞かせるタイレルの歌声に、心地良く酔う。素晴らしい映画の余韻に浸り、ただぼんやりとロールエンドを眺めているような、何とも言えない好い気持ち。

 ヴォーカリストとしてのタイレルはシンプルにメロディーを歌い上げるタイプ。目立ってフェイクすることもなく、テクニックに走るわけでもない。かと言って、決して素人臭いワケではないのでご安心を。無骨なまでに実直な歌いっぷりで好感が持てる、とでも言ったら良いだろうか。無駄な飾り気が一切必要ない人/ヴォーカリストなのだ。普段はあんまり口にしないけど、バーボンのロックでも飲りながら楽しくリラックスして聴けたなら、きっと更に気持ちが良いだろうなぁ~。




 今日彼をここで取り上げたのは、彼の出身地がテキサス/ヒューストンだから、だ。先日のカトリーヌが残した深い傷跡も未だ癒えぬアメリカ南部には、今日もまた新しい強烈なハリケーンがやって来ている。タイレルが現在どこに住まっているかは分からない(仕事のベースはロスらしい)が、ひょっとしたら今もヒューストンに家が在ったり、近い身内も住んでいるかも知れない。友人や顔見知りも多く居るかも知れない。そう思うと、来週に控えた横浜公演が気が気でないのだ。せっかく来てくれるんだから、心安らかに来日して、彼にも日本での公演を楽しんで欲しいよね。今のテキサスは、とてもこんな暢気な事は言って居られないくらいに大変な事態を迎えているのだろうけど、リタが与える被害が少しでも少なく、一刻も早く弱くなり消えてくれることをただただ願うのみだ。

 明日はこちらも台風17号のお陰で荒れたお天気なのかなぁ。折角の日曜なのにね・・・。


01.ISN'T IT ROMANTIC?
02.JUST IN TIME
03.YOU'BE SO NICE TO COME HOME TO
04.THIS GUY'S IN LOVE WITH YOU
05.MANHATTAN
06.THE NEARNESS OF YOU
07.I'VE GOT A CRUSH ON YOU
08.DO NOTHING 'TIL YOU HEAR FROM ME
09.NEVERTHELESS (I'M IN LOVE WITH YOU)
10.I JUST DON'T KNOW WHAT TO DO WITH MYSELF
11.GEORGEA ON MY MIND
12.THEY CAN'T TAKE THAT AWAY FROM ME
13.THAT'S ALL
14.LOVE LIKE OURS

■Steve Tyrell (vocal), Alan Pasqua (piano,vibes), Burt Bacharach (piano), Chuck Berghoffer (bass), Dave Carpenter (bass), Bob Magnusson (bass), John Guerin (drums), Bob Mann (guitar,vibes), Paulinho Da Costa (percussion), Michael Brecker (sax solo on #2&12), Clark Terry (trumpet solo on #1,5,&8, fulugelhorn solo on#9), Plas Johnson (sax solo on #7), Lew Soloff (fulugelhorn), Antoine Silverman (violin solo on #11) Dave Grusin (orchestral arrangement #14)
Produced by Steve Tyrell / Mixed by Bill Schnee



ディス・ガイズ・イン・ラヴ

ディス・ガイズ・イン・ラヴ

  • アーティスト: スティーヴ・タイレル
  • 出版社/メーカー: ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
  • 発売日: 2003/12/17
  • メディア: CD



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