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小田和正 / “個人主義” [和ネタ(J-AOR)]

個人主義.jpg

 やっぱりそうだったんだね。
 甘酸っぱい思い出のかけらを1つ、今日までずっと大切にしまってきたけれど、もう手放さなくっちゃいけない時が来たみたいだ。



 改めて思う。
 小田和正って人は、ほんとに強い人だ。今、もう少し同じ場所に留まっていたとしても、決して誰に非難されることも無いだろうに、昨日までの自分をさらり脱ぎ捨て、新しいアイディアを実現する為に、常に前へ前へと進んで行く。

 ここ数年続けて、高評価を受けてきたTBS系「クリスマスの約束」の中で、あっさりともうテレビはこれでお仕舞いだと彼は言った。残された時間を考えれば出来る事は自ずと限られてくる。オリジナルアルバムを1枚作って、それをみんな(ファン)のところへ歌いに行って、それで(自分は)終わりになってしまうかも知れないとまで言う。そして、オフコースを殊更に強調して振り返ってきたこのテレビ出演は、もう(オフコースは)終ってるんだよって伝えたかったから、なんだそうだ。こんな大事な話を、こんなラフで短いミーティングの差し込み映像を使って、さらりと僕らに(そして4人にも)伝えてしまうのかい?。

 懐メロとして捉えられているだけのようなベテラン歌手ならともかく、彼は未だセールスでも、パフォーマンスにおいてもトップ・アーティストだ。自らの年齢を思えばこその発言だろうが、あまりに唐突な、その言葉。そして言葉にするからには、彼にはもうその後の(歌うこと以外の?)ビジョンが描けているのだろう。曖昧な意思を以ては、決してこんなことは口に出来ない筈だ。

 それならば、もう望む事はひとつだけ。前作の『個人主義』(2000)のように素晴らしい作品を、彼の集大成とも言えるような作品をまた届けてもらうこと。それだけ、だよ。



 「個人主義」なんて、一瞥して誤解を受けやすいタイトルをよくもまあ、付けたものだと改めて思う。それは、社会の中で、もっとも尊重されるべき単位としての「個人」のことではあるけれど、所謂「身勝手」を指す利己主義とは違う。

 彼の好きな、夏目漱石の言葉をほぼ借用して綴れば、「自己の個性の発展を遂げるためには、同時に他人の個性も尊重しなければならない。自己の持つ権力、金力を使用しようと思うならば、それに付随している義務と責任を自覚しなければならない」という理念のこと。

 どうしてこんなふうに・・・。不景気で人の心が荒み、社会が乱れ、国がこんなにもおかしくなって行く中で、彼は、言葉にして発せずにはいられなかったのだろう。「汚れなき想いと 譲れない誇りと 迷いのない心は どこへいったんだろう」、そして「やがていつの日か、 この国のすべてを 僕らがこの手で 変えてゆくんだったよね」と、蒼き青春の頃を思い起こさせるように語りかける。

 先ずは、ひとりひとりが自分を見直す、「個人」を考え直すことからまた再び始めようと伝えるこのタイトルは、倒産やリストラで輝きを失ってしまっている、彼の同世代、実際の彼の友人知人へのメッセージとも受け取れるものだ。

 小田和正は歌う。
「捜してるものはきっと 最初から今もずっと いちばん近いところに 隠れてるんだ 自分の中に」と。



 「もうやらないよ。」

 それは、余りにも簡単な、とても短い言葉で終わってしまった。
小田和正は、もうオフコースを選ばなかった。彼は残りの音楽人生で自分の音楽を全うするために、ここでも「個人主義」を貫いた。「自分の声で、自分の言葉で、自分の場所へ辿り着く」ことを選んだのだ。テレビと言う、かつては頑なまでに拒み続けたメディアを通しての、この最終結論とも思える今回のメッセージに、その伝え方に、彼は一体何を思ったのだろう。そして、彼の言葉が途絶えた後の沈黙には、どんな気持ちが飲み込まれていたんだろう。

 「オフコースを選ばなかった」なんて書く事がそもそもの間違いなのかも知れない。
意外に親分肌で面倒見の良い彼のことだ、今回のテレビ収録に於いては変則的な形態であったけれど、ここ数年来、常に彼をサポートし続けているFar East Club Bandとともに在ることを選んだと言った方がむしろ的確なのだろう。そう考えたって不思議じゃないくらい、彼は今のバンドやスタッフを大事にしている。彼等こそが今の小田和正と共に在るのであって、オフコースはとっくに「卒業」した過去でしかなかったのだから。



 この、アルバム『個人主義』の中に“また、春が来る”と言う歌がある。
オフコースとはなんの関わりもない、せつないラブソング。

 ほんのなにげない
 晴れた午後は 二人のことを
 思い出すことあるかな
 二人の時は 止まったまゝだね
 また 春が来る

 今も 信じられないけど あの日 たしかに
 二人 終わってしまったのかな

 偶然でいいから どこかで 会えればいいのに
 きっと 時計が 動き出す

 知らないうちに
 いつかこゝも 変わってしまった
 もう一度 二人
 ほんとうに 会わないで いいかな
 ずっと このまゝで いいのかな
 季節は たゞ巡り また春が来る

 ねぇ またあの海へ
 またあの街へ 行ってみないか
 クリスマスの夜 二人腕からませて
 また ずっと どこまでも 歩かないか

 もう一度 二人 会わないで いいかな
 こうして このまゝ 終わるのかな


 二度と会えないと思っているからこそ、あの人に会いたい
 そうずっと思い続けるのは哀しいことだけど、だからこそ“美しい思い出に”変わって行くんだろうね。

 あの日は帰らないんだ。


個人主義

個人主義

  • アーティスト: 小田和正
  • 出版社/メーカー: ファンハウス
  • 発売日: 2000/04/19
  • メディア: CD



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